「風評被害」の被害者は?

parisienne752011-09-19

最近の日本のメディアの、ことば遣いがおかしい。
至るところで見る、風評被害、ということば。

風評を辞書で調べると「世間であれこれ取りざたすること。また、その内容。うわさ」とある。

「野生キノコ:秋の味覚に風評被害も…福島でセシウム検出」(毎日新聞
実際、キノコに高濃度のセシウムが出た、という話だが、これって風評被害なの?嘘の話が「世間であれこれ取りざた」されて、風評被害が生まれるものとばかり思っていた。ほんとうの話が、「世間であれこれ取りざた」され、人々が購買を控えたりするのも、今の日本では風評被害とされるらしい。この場合、消費者はキノコを食べなくなるので、生産農家が被害者だ。

「福島では今、下を向いている人が多いのだという。震災から半年たっても原発事故の風評被害はやまず、人口流出が続く」(日経新聞
放射能汚染がひどい福島から、流出するのはきわめて当然なことだと思う。汚染があることを知らない人あるいは知っていてもそれは健康に影響ないと思っている人、真実を知りたくない人、どうしてもよそに出られない事情のある人を除けば。この場合、一体だれが「風評被害」を受けるのだろうか。福島県知事かな。

メディアだけでなく、政府も同じような言葉の使い方をしている。
「外務省は、東京電力福島第1原発事故による日本の農産物や観光などへの風評被害対策として、フェイスブックツイッターなどソーシャルメディアの発信者を海外から招く準備に入った」(毎日新聞
現実にある汚染が世界中の人に知られ、来日を控える人が増えていることが、風評被害とはねえ。私も、「フクシマは収束したようだから、日本に行きたい」という若い仏人カップルを引き止めた。「これから子どもも作りたいのでしょう?」と。実際、以下のように食べ物の放射性物質許容量が引き上げられ、プルトニウムでさえ、10ベクレル/kgまでOK、ということを知ったら、誰が日本に来たがるだろうか。

それが風評被害だとしたら、現実を見ない、現実を隠すことが、風評被害を防ぐ唯一の方法だ。政府もメディアも一体となって、今それをやっているように思われる。

「死の町」と本当のことを言えば批判される日本。ほんとうに狂っている。「死の町」を作ったのは一体だれか。断罪されるべきは、「死の町」を作った張本人だ。「死の町」を「死の町」と認めないのも、「死の町」を作った張本人である。国ははっきり、特定の地区にはもう永遠に戻れない、と認め、それをきっちり避難住民に伝え、損害賠償をして住民の生活再建を助けるべきだと思う。ほんとうに気の毒なことだが、福島原発およびその周辺を汚染物質の廃棄場にするしか、汚染拡大を防ぐ方法はないだろう。

そんななか、「一時帰宅始まる マイカーでも可能に」を読んで、またまたびっくりした。車は汚染を拡散する道具だ。いくら洗車しても、ワイパーや窓やドアのゴム部分に放射性物質が溜まるらしい。政府はこの基準も引き上げて、放射能拡散を促進している。原発で働くハッピーさんのツイッターにこうあった。
「朝に現場行こうとJヴィレに行ったら20キロ圏内から持ち出すスクリーニングレベルが100,000cpmから13,000cpmに変更した貼り紙が…。えっ?なんの前触れもなく朝に通達メールが各社に送られたみたい」

東京で働く娘のためにガイガーカウンターを買っておいたが、娘がこの夏うちに来たとき、我が家のあちこちを測った。だいたい、0.08-0.10μSv/Hだったのが、娘の衣類が入ったスーツケースに入れた途端、0.18に上昇した。洗濯済みの衣類なのに、これだけ線量が急上昇することに驚いた。
被災地にずっとおいてあったものは、もっともっと激しく汚染されているだろう。車に積めるだけ積んで、避難している場所に移動させるのは、汚染を拡大することにほかならない。