ピュリツァー賞受賞ジャーナリストの重要なインタビュー

https://www.democracynow.org/2017/2/16/greenwald_empowering_the_deep_state_to

ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト、グレン・グリーンウォルド
ーーディープステートにトランプを蝕む権力を与えるのは、
民主主義の破壊につながるーーーー

グレン・グリーンウォルド:ディープステートとは何か。正確な定義はないが、一般にワシントンで恒久的に力を持つ機関を指している。大統領が誰であっても変わらずに力を持ち、その力は秘密裏に行使され、民主主義の目が及ぶことはない。CIAやNSAなどのアメリカの諜報機関がこれにあたる。彼らは偽情報を広めプロパガンダを行い、世界で最も悪質な戦争犯罪、残虐行為などを犯し、血なまぐさい長い歴史を持つ。多くの民主党員が信頼し、さらなる力を与え、選ばれた政権と対立する力の発揮を喜んでいるのは、こうした
機関なのである。

最近の対ロシア問題だけではない。選挙キャンペーン中すでに、オバマ政権のCIA長官マイケル・モレルがニューヨークタイムズ紙NYT(訳者注1)へ、ブッシュ政権のCIA、NSAの元長官マイケル・ヘイデンがワシントンポスト紙WP(訳者注2)へ出向き、ヒラリー・クリントンを称賛しトランプはロシアの雇われ人だと話している。諜報機関は最初からヒラリーを熱狂的に支持し、激しくトランプに反対してきた。CIAのこの5年にわたるプライオリティはアサド体制を覆すためのシリア代理戦争で、オバマ以上の強硬派ヒラリーは、CIAの望みにぴったり一致していた。トランプはシリアの政体がいかなるものか(訳者注3)、より、まずイスラム国、アルカイーダを倒すことに主眼を置き、CIAとは真逆の立場だった。選挙キャンペーンの数ヶ月間、諜報機関は積極的に彼の名を傷つけようとしたが、トランプが選挙に勝った今、情報漏えいのみならず、彼を権力の座から降ろそうと奮闘している。彼に情報を渡さず、政権は自分たちにある、という振る舞いだ。

トランプ政権は極めて危険だ。環境を破壊し、社会保障などのセーフティネットを制限し、大金持ちにさらに富を与え、イスラム教徒や移民や多くの人々を排除する政策をとっている。それに異議を唱えることは重要だし、実際にそれを行う良い方法は、法廷に訴えることや市民運動などたくさんある。中でも重要なのは、民主党自己批判も含め、あらゆる点で崩壊しているアメリカでどんな効果的な政治勢力となりうるか、を考察することだ。

ところが、今、トランプに反対する人々の動きは、トランプよりさらに悪い唯一の勢力、ディープステート、残虐非道の歴史を持つCIAの側に立ち、選挙で選ばれた大統領が政策を実行できないよう、ソフトなクーデターを起こす、というものだ。これは危険極まりない。CIAやディープステートを信じること、かたやトランプが危険だ、と思うこと、この両者には大きな違いがあるのを忘れてはならない。トランプは選挙で民主的に選ばれ(訳者注4)、法廷やメディアや市民運動など民主的なコントロールが効くが、CIAは選挙で選ばれておらず、民主的なコントロールが全くきかない。そうした機関が選挙で選ばれた政権を覆そうとするのは異常ではないか。民主主義を守る、という名目で民主主義を破壊しているのも同然だ。

質問者:ウォールストリートジャーナルWSJが、諜報機関は今、トランプにすべての情報を渡さない、彼がそれをどう使うか、不安だからだ、と書いている。ロシアに情報が漏れるのでは、という危惧があるのだろうか。

グリーンウォルド:まずここに、メディアの問題がある。WSJの記事も、多くがニセ情報だと判明した、ここ数ヶ月のロシア関係の記事と同様に、匿名の人の曖昧な話だ。WSJも「誰が情報を渡さないのか、私たちは知らない。どれだけの情報がトランプに渡されないでいるのかも、私たちは知らない」と書いている。

もし、トランプがロシアのスパイだのロシアに脅迫されている、だの、ロシアがハッキングした、などというのなら、これは大変重大な疑惑なので、真剣で冷静な、きっちりした調査が必要だ。しかし今起きているのは、メディアがトランプとロシアに関するちょっとした噂を記事にするだけで、そういう話を聞きたい読者が万というツイートをしてそれを世界に広め、メディアのヒステリアが引き起こされている、ということだ。

質問者:The Intercept (グリーンウォルドが創設した独立メディア)の記者がこう書いている。「もしこれらが本当にナンセンスなら、大統領として、トランプはロシア関係のコミュニケーションを直ちに公表して、それを証明できる立場にいるのではないか」

グリーンウォルド:興味ふかいポイントだ。(元)フリン安全保障補佐官とロシア外交官の通信に関して様々な報道があるが、誰一人、通信コピーの全貌を見たものがいない。この記事を書いた同僚が言うことは正しい、大統領は直ちに機密扱いを解除する権限があり、そうしたのち、全体を公開できる、と。

一方で、この4年間、機密情報のリークに関して取材してきたジャーナリストとして(訳者注5)、大統領は政府が得ることができる機密情報を公開すべきだ、という示唆には違和感を感じる。クレムリン内部をどのように盗聴しているか、その内容を一般に公開することに何ら問題はないのだ、といっているようなもの。いま起きていることは、異常なダブルスタンダードなのだ。テロとの戦い以来、機密情報は神聖で、それを漏らすものは裏切り者、悪魔のような存在で、長い間収監されるべきものだった(訳者注6)。ところが今、機密情報とは、何らかの目的に合うものであれば、私たちが面白おかしくもて遊べるものになっている。このような展開が、私を悩ませている(翻訳終り)

訳者注1:NYTにはかつて10人のCIA工作員がいた。ウォーターゲート事件を追及したバーンスタイン記者が、全世界でCIAのために働く記者が400人いたことを暴露。これは60−80年代のこととはいえ、近年もドイツのウルフコテ記者が同様の内容の本を書いている。
訳者注2:2013年、アマゾンのCEO、ジェフ・ベィゾスが2.5億ドルでWPを買収。同氏はその年、CIAと6億ドルのウェブ情報提供契約を結ぶ。
訳者注3:良いはずがないが、欧米はもっとひどい北朝鮮をなぜ放置しているのか、を考えれば、CIA主導のアサド打倒の真の目的が容易に推測できる。
訳者注4:選挙制度に問題があるのは確かだが、これまで選挙制度を民主的でない、と批判するデモが起きたことはない。全米投票総数ではヒラリー票の方が200万票多かったが、これはカリフォルニア1州でヒラリーが400万も多く獲得したため。カリフォルニア州の選挙人55人を獲得するのにここまで圧勝する必要はなく、いわば無駄に票を獲得したことになる。
訳者注5:グリーンウォルドはスノーデンの機密ファイルを記事にした最初の記者の一人で、「スノーデンが私に託したファイル」を著している。
訳者注6:オバマ政権以前の数十年、情報源の訴追は3件しかなかったが、オバマ政権下8年では9件も。