「ゾエの方舟」に思う

一昨日、フランスの人道支援組織「ゾエの方舟」のメンバー6人に8年の実刑判決が下った。
スーダンダルフールの孤児をフランスにつれて来て支援する(養子とは明言していない)という名目で、103人の子供たちをフランスに輸送する直前、チャドの空港で逮捕された人たちだ。

103人の子供はスーダンダルフールの孤児どころか、チャドでよい教育を受けさせる、というウソによってチャドの家庭から集められた子供たちだった。空港で泣きわめく子供たちの何人かは、内戦で負傷した可哀想な孤児、という演出のため、ニセの包帯を巻かれていた。
養子にできると思いこみ、2000-3000ユーロの支援金を拠出したフランス人夫婦もたくさんいて、チャド当局は「人身売買」組織だとして非難している。

チャドですでに、誘拐未遂のかどで強制労働8年の刑が下っていたが、犯罪者引き渡しに関する相互協定によって6人は身柄をフランスに移され、フランスの法で裁かれることになった。チャドで強制労働するより、フランスの刑務所のほうが、待遇がいいに違いない。

「子供たちを助けたい、と心は開いていたが、現実を見る目が閉じていた」と反省するメンバーもいて、2人の代表とその他のメンバーが同一の刑8年、というのはちょっと疑問だが、組織代表はもっと厳しい刑でもよかったのではないか、と思う。

問題は、戦争孤児ではなく普通のチャド家庭の子供を集めた責任者はだれか、2000ユーロを出した家庭は、どういう情報をこの組織から得ていたのか、だ。組織側にどんな意図的な欺瞞があったのか、新聞をいろいろ読んでみたが、はっきりしない。少なくとも、子供を欲するフランス人家庭への説明はわざとかどうか、たいへんあいまいなものだった。

フランスでの裁判は、チャドとの摩擦を悪化させないように、という配慮から、同じ年数の刑になったのではないか、と思う。もと宗主国フランスの大統領がチャドに乗り来み、飛行機の機長など組織関係者以外を連れて帰ったり(セシリア前夫人が、リビアで死刑宣告を受けていたブルガリア人看護婦たちを解放するのに貢献したので、それと張り合っているのかな)、被告の身柄をフランスに送還したりしたため、「新植民地主義」だとしてチャド側の反発が高まっていた。

12月にこのニュースが流れたとき、第一に頭に浮かんだのが、「ヨーロッパ人の傲慢さ」だった。貧しいアフリカの村で両親と暮らすより、フランスで養子になった方が子供のためにいい、と決めつけるヨーロッパ人の価値観だ。これが根底にあるから、(最大によい解釈をして)善意でいっぱいのメンバーが、子供たちを救おう、とアフリカに繰り出したのではないか。

文化の違いを無視したヨーロッパ人の独善にはときどき辟易してしまう。