雌グモのルイーズ・ブルジョワ


世界でもっとも年寄りで、もっともラジカルなアーティスト、ルイーズ・ブルジョワの展覧会がポンピドーセンターで開催されている。
六本木ヒルズに巨大なクモの彫刻があるが、あれを作ったフランス生まれ、アメリカ在のアーティストだ。
初めてクモを見たのは、ロンドンのテートモダンのオープニング(2000年)だったが、その後、ビルバオグッゲンハイム美術館の前でも見た。この世に何匹の巨大クモが存在するか知らないが、今回、ポンピドーのメーンホールにお目見えしたのは、これまで見たものより丈の低いクモだ。

ルイーズ・ブルジョワはこの10年、しつこくクモを作っている。糸を紡ぐクモは、彼女にとって、「賢く、忍耐強く、きゃしゃで、役に立ち、必要不可欠な母親そのもの」なのだそうだ。今回、キューレーターの説明を聞いて初めて知った。そういえば、彼女の作るクモはみんな、お腹に卵をかかえる雌グモだ。

作品に使う素材は木、大理石、布、金属となんでもあり、トーテムから人形風まで作風もさまざま。だから今まで、なんとなくよくわからないアーティストだったのだが、今回の回顧展(まだご健在だが)で、「子供時代の記憶とトラウマ(妻妾同居の家庭生活)」、「家にいる女性(家をアトリエにして、子供を育てながら作品を作った)」が、作品を貫く基調低音となっていることがわかった。タペストリー(家業はタペストリー屋で、タペストリーを繕う母親のそばで育った)や布を使った作品、繊維の縦糸横糸をモチーフにした作品などでは、子供時代の記憶を復元し、子供時代を再び生きることで、創造のエネルギーをかき立てているのではないか、と思う。

「ルイーズの作品は、鬱や不安、捨てられる恐怖や愛の喪失との不断の戦いそのものだ」とキューレーターは言う。
トラウマ的な子供時代を送った人間なら、いや、そうでない人だって(程度の差こそあれ)みんな持っている不安・・それをアートとして吐き出せる人がアーティストになる。そんな人は幸せだと思う。

歳を重ねるほどラジカルになるルイーズ・ブルジョワは、今年97歳。