大雨、大雪のモロッコ


飛行機から、水平に走る稲妻が見えた。オリーヴの木々は、赤茶色の洪水のなか。同じ形の貯水池が2度見えた。燃料がなくなっちゃう、と不安が募る。結局、マラケシュに着陸できず、私たちはアガディールまで連れて行かれた。そこで給油して天候回復を待つ。3時間の空の旅が、7時間になってしまった。

翌日、車でトレッキング出発点の村まで行く途中、真っ白なアトラス山脈が見えた。前日降った新雪だ。出発点でミュール8頭、ミュール使い5人と合流し、河原を遡る。私たちは総勢15人、フランスのあちこちから来たフランス人14人と私。パリ市内に住むのは私一人だった。


2日目、河原から山道に入る村で小屋に泊まる。村人の写真を撮るのは難しい。必ず、カネくれ、と言って来る。ラダックやネパールでは、笑顔で「ジュレー(こんにちは)」「ナマステ」と言えば写真をとらせてもらえたのに、ここでは、遠くから撮っただけなのに、カネよこせ、と近寄って来る。目の前で写真を消して見せ、ことなきを得たのは、デジタルカメラのおかげだ。
ツーリストに対する物乞いには応じない、がエコ・ツアーの原則のひとつである。

3日目は、渓流沿いの山道を歩き、3600mくらいの峠を越え、 悪趣味なシャレーが立ち並ぶスキー場の近くで野営。アラビア語のスキー場案内板って、なんだか不思議な感じがする。ウインター・スポーツを楽しむ豊かなモロッコ人にも、子供たちはペンや小銭をねだるのだろうか。


4日目も山道を数時間歩いて、トゥブカル国立公園へ。登山拠点の村イムリル近くで野営の予定だったが、ひどい雨なので、小屋泊まり。シャワーも浴びられて嬉しい。5日目、トゥブカル小屋(3207m)まで、1200mの登り。日中、融けた雪が小川のように流れる登山道を数時間歩いたあと、雪が深くなると、もう最後の山小屋だ。


6日目は登頂日。この日は1000m登って、2000m下るから、一番きつい日となる。雪がふかく、イギリス人グループはアイゼンをつけ、ザイルで結ばれて歩いている。ちょっと大げさに見えるが、山はあなどれない。私たちは、ガイドが雪を踏みしめた跡をたどって歩くので、アイゼン組より早く歩け、3時間半ほどで登頂。4200mの頂上は雪で何も見えない。オレゴンで山岳ガイドをやっている、という一人旅のアメリカ人が、「これがアフリカ?」とびっくりしていた。
寒いのですぐ下山、トゥブカル小屋で昼食を取ったのち、夕方5時には下の小屋に到着、モロッコ料理のタジンを最後の晩餐にいただいた。

最終日、マラケシュのホテルでテレビをつけたら、「イエメンで洪水、70人死亡」というニュース。日干しレンガの家だから、洪水が起きたらひとたまりもない。最近、砂漠地帯で洪水、というニュースをよく聞くが、洪水伝説は史実であり、それは繰り返されるのではないか、と思ったりする。