演出には不満、歌い手には大満足

ジョーンズの演出はほんとうにへんちくりんだった。
エルザ姫とローエングリンは、小さなマイホーム(城のはずだが)を建てている。他の人夫と同じように埃にまみれ、まるで強制労働をさせられているようだ。いずれ生まれる赤ん坊のために、ユリカゴまで用意するが、ローエングリンが名前を明かして立ち去らねばならなかった時、彼は2人のベッドにユリカゴを乗せ、それに火をつける。
婚姻=ベッドという暗喩は月並みだし、婚姻=赤ん坊のユリカゴはあまりにもキリスト教的だし、崩壊に火を使うのは安直すぎるのでは、と思った。
最も不可解だったのは、ローエングリンが去ったあと、ショックで死んでしまうエルザ姫(もともとはそういう物語だ)が死なず、代わりに、建設にあたった労働者が集団で死んでしまったことだ。???であった。この???は、いろいろ読んでみたが、未だにナットクできる解釈をした人はいない。チラシの行方不明男児は、最後にわかったが、白鳥に変えられていたエルザ姫の弟だった。

しかししかし、である。舞台に目を吸い付けられなかった分だけ、耳がよく働いたのかもしれない。歌に心から没頭できたのである。
歌い手がよくなかったら、あの舞台じゃ、途中で退出していたかもしれないなあ。