粘土細工師のパン屋さん



サンジャック通りをずっと下ったところに、素敵なパン屋さんがある。壁一面にパン細工、その下の大皿にパンや焼き菓子を並べただけのかわいいお店だ。「ブーランジェリー・パティスリー」(パン・菓子屋)という看板があるだけで、店には名前がない。バゲットは、ふつうのバゲットとはテクスチャーや味が少し違う。おいしいけれど、いろんな基準がある全仏バゲットコンクールには絶対入賞しないだろう。
クロワッサンも、パイ菓子に近いクロワッサンではなく、パンであることを主張しているクロワッサンで、これがまたおいしいのである。甘い杏パンもココナツパンもいける。

本の雑誌に載っているパン屋には、日本の女の子がグループでやってきて、買ったばかりのパンやお菓子を掲げ、Vサインを出して写真を撮ったりしているが、見ていてちょっと恥ずかしい。この店は名前がないから、きっとあまり有名にならないし、日本の女の子もやって来ないだろう。地元の人にだけ愛される店でいい、とこのパン屋さんは思っているのではないかしら。

このあいだ寄ってみたら、店のなかに粘土細工の村ができていた。パン細工とともに、このパン屋さんが自分で作ったものだという。子供のときから、粘土遊びが好きで、それが嵩じてパン屋さんになったらしい。奥のオーヴンに他の人が1人いるだけで、製造から販売まで、このパン職人さんがほぼ1人でやっている。店を大きくするとか支店を出すとか、そんなことには興味がなく、自分の好きなものを楽しんで作り、おいしいと思って買ってもらえればいい、という気持ちが伝わって来る、こんな店にはおおいに通って応援したい。(ちょっと遠いのだけど)