自由の国フランスでアート検閲

パリのボザール(国立美術学院)でこの週末、ボザールほか2校の学生の作品展が開催された。作品の検閲騒ぎがあったので、野次馬の私は、一体何が起きたのか気になって、出かけてみた。

正面入口の階段に、「稼ぐ」、「より少なく」、「もっと」、「働く」と印刷された小さな紙が散乱していた。展示室にも、至るところにこの紙が貼られていた。これが作品なのかどうか、よくわからない。なにせ、コンテンポラリー・アートなのだから。
しかし、ある有名なフレーズをもじったものだ、ということははっきりしている。2007年大統領選時のサルコジのスローガン、「もっと働き、もっと稼ぐ」だ。「より少なく」はスローガンにない、アーティストが加えた単語だ。4枚の紙を並べ替えて写真を撮った。
「もっと働く、(しかし)稼ぎはより少ない」。この方が現実に近い。

あとの作品には見るべきものがなかったので、家に帰ってネットで調べたら、リベラシオン紙に以下の写真が載っていた。これが、「検閲」され、撤去された作品だった。通りを歩く人は、「より少なく働き」と読んで振り返ると、旗の裏に「もっと稼ぐ」と書かれているのを見る、という具合だ。これは多くの人の願望である。

作者の中国人学生は、怒って言う。
「水曜朝、この旗を取り付けて出かけ、夜戻って来たら、取り外されていた。私は中国から来たけど、フランスでこんなことが起きるなんて、考えられない。話し合うことすらない、乱暴な検閲だ」
確かに、自由と芸術の国フランスにやってきて、中国のような検閲をやられたのではたまらないだろう。

ボザールは、「校内でも教育省の中でも、気分を害している人がいる」「(撤去した理由は)学校側の許可なしに建物外に展示したため」「打ち合わせなしの展示であり、見る人に対する説明もない、これでは公共サービス(学校のことだろう)の中立性を犯し、施設をうまく利用している、とみなされかねない」と言うが、どうにも苦しい言い訳だ。これが、たとえば春夏秋冬のような単語が書かれた旗だったら、建物から撤去されただろうか。
中国人学生の意図はよくわからないが、お上の反応を引き出すことが目的だったのなら、大成功だ。もともとは政治の道具に使われたこのフレーズ、今では古くからの諺と同じくらい有名なのだから、サルコジと離れてすでに一人歩きしている、と私は思う。単語を並べ替えれば現実にも願望にもなる、という言葉遊びの裏に、サルコジ批判が潜んでいる、とでも当局はかんぐっているのだろうか。