結婚式に行って原発を見る

 ブルガリアのソフィアに着いたら、30年ぶりの大雪で道路が閉鎖されていた。
 飛行場はその前日、一日中閉鎖されていたらしい。
 結婚式が開催されるドナウ川沿いの村は1.5mの積雪で孤立。披露宴をするレストランも、食材が手に入らないため、一時は結婚式延期か、という状況だったらしい。
 NYからインスタンブール経由で来た友人(新郎の母)と私はソフィアに1泊し、翌日、なんとか電車を乗り継いで最寄り駅まで行けたけれど、式のあともまだバスは不通で(山をひとつ越えなければならないので、手前の村でバスは折り返してしまう)、往復2日を移動に費やす羽目となった。

 どこもかも凍てついていて寒かったが、道中の雪景色はきれいだった。
 雪のなかを歩くウエディングドレスの新婦も、とても美しかった(残念ながら、民族衣装ではなかった)。
 衣装はフツウでも、民族ダンスや、大きなパンを使った土着的なセレモニーが盛り込まれていて、興味深かった。三三九度のように新郎新婦がシャンパンを飲んだあと、そのグラスを後方に放り投げて割るのは、割れた数で授かる子供の数を知るためだという。割るとか切るとか、日本では御法度だが、ここではそういう言語的な迷信はないようであった。

 最寄り駅から田舎の村へ行く途中、大工事現場に出くわした。原発工事だった。

 EU加盟条件として、旧ソ連製の危険な原子炉の閉鎖を余儀なくされたブルガリアは、ここ2、3年、深刻な電力不足に陥っていたが、このベレネ原発建設で電力輸出国になることを目指している。ソ連崩壊前に建設が始まり、1991年に中断された原発だが、2007年のEU加盟実現後、すぐに工事が再開された。

 入札に勝ったロシアは、チェルノブイリ型ではないもっと安全な原子炉を建設する、と約束しているそうだが、地元民に不安はないのか。地元の青年に、これに関する説明会や議論などがあったかどうか聞いてみたが、そんなものは何もなかった、それどころか、平均月収が200ユーロにも満たない国の、何の産業もない田舎町の住民は、職が増えるのを期待し、原発建設を歓迎している、という。

 豊かな国に住み、ちゃんと仕事についている人が遠くから原発反対を唱えるのは易しい(原発による電気を使いながら)。地元民がそれを歓迎するような場所に建設される、というこの現実を見て、私はこの青年に何と言ったらいいかわからなかった。