「Lust, Caution(色、戒)」

アイリーン・チャンの原作で、「ブロークバック・マウンテン」のアン・リーが監督。
日中混血の女スパイ、テン・ピンルーの実話を(少しだけ)下敷きにしている、と言われる。
ブロークバック・マウンテン」は、ホモのカウボーイの物語、というので食指が動かなかったが、行って見て、その愛の深さにじわじわと感動し、久しぶりに映画館で泣いた。「戒色」も同じく、ヴェネチア映画祭で金獅子賞をとった、というから期待して見に行った。

日本軍占領下の上海を舞台に繰り広げられる、抗日運動に巻き込まれ女スパイとなった女学生と、暗殺対象の親日派高官の愛と裏切りの物語。女スパイは、いくらでも組織を裏切り男を逃がす機会があったのに、巨大なダイヤモンドを贈られたその瞬間に、男を逃がす決意をする。自分の命と引き換えに。
ダイヤモンドか(ため息・・)ーーそんなもので男の愛を信じるのか、と、最後の安っぽい展開にはがっかりした。そんなもの贈られたことがないけれど、経験がある人は違う見方をするのかしら。
ちなみに、毛皮を贈られたテン・ピンルーは、毛皮店の外で男が銃撃されるに任せていた、という。テン・ピンルーなら、毛皮でなくダイヤモンドでも変わらなかっただろう。

さて、「色」のほうだが、これもなんだかねえ。性が、愛よりも暴力・権力・支配被支配と結びついている、というのに(特にこの映画の男では)、ウブな女学生は、それを愛と結びつけて身を滅ぼしてしまったのだ。

前作と違って、涙ひとつでなかった。アイリーン・チャンの原作かおそらくは実話のほうがもっとおもしろいのではないか。ひょっとしたら、この監督は、男女の愛より男性同士の愛のほうを深く描けるのではないかしら。