「No Country for Old Men (「ノーカントリー」)

メキシコ国境に近いテキサスで、麻薬密売がらみの殺し合いに遭遇し、大金を持ち去った男と彼を追う殺し屋の、追いつ追われつのサスペンス。
200万ドルだかいくらだか忘れたが、大金を巡って何人が殺されたことか。コーマック・マッカーシーの原作「血と暴力の国」の映画化だが、コーエン兄弟によるこの映画の中身は、本の原題そのままだった。

映画のタイトルを「老人に住む国なし」としたのは、トミー・リー・ジョーンズ演じる保安官に代表される、善と秩序を体現するオールド・メンが、もう今の惨状にはついていけない、という悲鳴あるいはため息を強調したかったからだろう。明るい未来が見えない映画だ。

瞬きひとつせず相手を見据える殺し屋は、不気味だがちょっとコミカル。殺しの場面はもうたくさん、と思ったころ、血しぶきは出て来ず、殺し屋が靴の底をちょっと見る様子(血がついてないかどうか)で「やっぱり彼女も殺されたんだ」とにおわすなど、巧みな演出だ。

しかし、あれだけたくさんの人を殺した大金は、結局誰の手に渡ったのか。見落としたのかと思って、一緒に見た友人に聞いてみたが、彼女もわからないという。この映画を見たほかの友人も、誰一人わからなかった。
で、これはわざとわからないようにしているのだ、と気がついた。多くの血が流れた末に、だれかが得をした、では困るのだ、この映画は。