植田正治写真展


サンポールにあるヨーロッパ写真館に植田正治(1913-2000)の写真展を見に行った。
鳥取の境港出身で、砂丘や海といった原風景に最後までこだわり、そこに住みつづけた写真家だ。
フランスでは80年代に植田正治の評価が高まり、96年には氏にフランス芸術文化勲章が授与された。

カルチエ=ブレッソンが風景の中に見いだした幾何学模様は、どこまでもレアリスムだったが、植田正治が風景と人物から抽出したラインや形は有機的で柔らかく、その画像はまぎれもないシュールレアリスムだ。

トランペットで顔を覆われた女や、砂丘に山高帽を被った人物を配し、不思議な奥行きを生み出した作品は、ルネ・マグリットの絵を彷彿とさせる。それも、マグリットより数十年も早く、ヨーロッパから遠く離れた鳥取で、たった一人で実践したシュールレアリスムなのだ。
砂丘に照射された光の隅にたたずむ女性は、デ・キリコの絵を思い出させるが、何らかの感情をかきたてるような作為はなく(演出はあるが)、ミニマリズムの舞台のようにただただ美しい。

登場人物がほとんど家族、というのも、無機質なシュールレアリスムにはない、なにげに心和むものを感じさせる理由ではないかと思う。

展示の壁には、植田正治自身の言葉がいくつか書かれている。
「画家や彫刻家は、描きたいものを描いたり作ったりする。でも写真は、いらないものまで写してしまうので、ほしいものだけ見えるようにするのに苦労する」(翻訳の翻訳なので、本人の言葉とは少し違うかもしれないが)

いい展覧会だった。(写真は展覧会チラシより)