再びチベット


チベットおよび中国各地のチベット人に対する武力弾圧が激しさを増しているなか、「国境なき記者団」は調査機関に依頼して北京オリンピクに関する世論調査を行った。それによると、フランス人の53%が、北京オリンピック開会式をボイコットすべき、と考えている。一方で、選手による大会ボイコットはすべきでない、という考えが55%を占めている。

私も、オリンピックを目指して練習を続けている選手たちから、力を発揮する場を取り上げるべきではないと思うが、中国政府に意思表示をするには、開会式ボイコットが一番よい方法ではないか、と思う。ボイコットの脅し程度では中国政府は変わらないだろうが、これだけの血が流れた後、何ごともなかったように各国が和気あいあいオリンピック開会式に参加したり、人権という重要事項を棚にあげて各国政府高官がオリンピックを観戦したり、そんなことができるものだろうか? それでは、世界全体が中国の人権抑圧の共犯者となってしまう。


しかしフランスでも、国民と政府の間に大きな温度差がある。
人権問題に熱心であるはずの人権担当国務大臣ラマ・ヤデは「北京はダライラマと手をつないでちょうだいよ」と、まるで子供の喧嘩の仲裁人(1日後には「ダライラマがフランスにくれば、会う用意がある」に変化はしたが)。
開会式ボイコットの提案は、検討にあたいする」と言った外相は、すぐにそれを撤回し、「中国は報道陣を現地にいれるべき」にトーンダウン。

武力鎮圧が始まってから10日間も沈黙を守っていたフランス元首は、やっときのう、「暴力を停止して、チベットと対話すべき」というメッセージを中国元首に送った。ダライラマを迎えて話し合いを持ち、中国の開発プログラムの凍結を決定したドイツ首相や、5月にダライラマを迎えると発表したイギリス首相の素早い対応とは対照的だ。
選挙時に人権問題を選挙公約に入れていたサルコジ大統領は、経済大国になりつつある巨大市場、 中国に対しては完全に腰抜けの姿勢であることが白日のもとにさらされた感がある。財界人を引き連れて中国訪問をし、300億ユーロの契約をとりつけたセールスマンとしては、苦しい立場だ。

それにしても、大統領が行く先々で、面前の聴衆のうけを狙った場当たり的発言(政策発表?)をするこの国は、いったいどこへいく?
核兵器搭載型潜水艦の進水式では「核兵器による警告の可能性」(すぐキレル大統領にそんなことを任せられるか!)、ユダヤ人の集まりでは「フランスの第5学年生(10歳)に、ナチスに殺された子供のうち一人の名前を覚えてもらい、その子供と自分を一体視させる」(浅はかな提案、とユダヤ社会からも批判噴出)、食材を生産する農民には「フランス料理を世界遺産に」(人畜無害な提案だけど、これって、国威発揚のため?)。
しかしフランス人もそこまでアホではない。今月の地方選では、サルコジに対する不信から、野党が躍進した。

人気凋落のサルコにとって、中国問題は人気挽回のいいチャンスではないか。中国に正々堂々とモノを言って、金より義を尊ぶ姿勢を少しでも見せてほしいものだ。