ヴィラ・メディチ、専横の犠牲者

ローマのアカデミー・ドゥ・フランス(ヴィラ・メディチと呼ばれるフランス文化館)は、フランスの在外文化機関のなかで最も重要な機関とされ、歴代館長には、アングルやバルチュスといった重要な画家が名を連ねている。年間予算も500万ユーロ(8億円近い)という破格の額だ。
文化面で大きな貢献をした人が選ばれるこの名誉な地位に今回、選挙でサルコジ氏に貢献し、エリゼ宮の文化顧問を務めた作家、ジョルジュ・マルク・ベナムー氏が任命され、大きな波紋を呼んでいる。

1週間前、文化人約30人によるベナムー任命反対論がルモンド紙に掲載された。女優のジェーン・バーキン(イギリス人だが、押しも押されもせぬフランスの女優)、作家のイヴ・シモン、アーティストのソフィー・カル、映画監督のパトリス・シェローなどフランスを代表する文化人の反対意見のタイトルは、「ヴィラ・メディチ、(大統領の)専横の犠牲者」。

「必要に迫られて見つけた天下りのポスト、という以外に、この人物が妥当な人選だと思う人はいない」
サルコジ氏は選挙戦で、重要ポストはその能力、評価に従って民主的に選ぶ、と約束したが、今回の任命は、大統領への近さから選んだもの」
「作家活動と自作の映画化に、この地位はうってつけだ、とまで公言しているこのような人物を選んだのは、イタリアに対しても失礼なことだ」
と、彼らは大統領を鋭く批判している。 

ベナムーの作品は読んだことがないが、ノンフィクション「ミッテラン最後の日々」は、事実無根の描写が多く、評判は芳しくない(ミッテラン元大統領とも親しかったらしい)。そういった本人の資質はさておき、文化人たちが一番問題にしているのが、「大統領の専横」だ。一番かかわりが深いはずの文化大臣もまったく相談を受けなかったという。

サルコジ大統領就任後、大統領の専横と側近政治が目立っている。フランス議会も影が薄くなってしまった。大統領が諮問委員会をつぎつぎと設立し、そこで、あるいは大統領一人で、勝手に決めてしまうことが多いからだ。ルモンドなど大新聞も、この危険な傾向について警鐘をならし始めた。

それでも押し切るなら、サルコジ大統領は独裁者になってしまう。しかし、国民が要求や反対意見の表明に熱心なこの国では、大きな批判や要求の無視は、政治家の命取りになりかねない。それをよく知っている大統領はこのたび、ヴィラ・メディチ館長の人選に関して、専門委員会を設けて再度、慎重に行う、という声明を発表した。

異議を唱える国民、それを無視できない政治家・・・そういう意味で、フランスにはまだ民主主義が生きているようだ。どんな政治をしても国民が黙っている国とは違う。さすがに、革命を起こした国だけのことはある。

北京オリンピックの件にしても、元文化相のジャック・ラングが大統領、外相にテレビで公開質問をし、チベット問題に関する沈黙から抜けでるよう促した。世論も高まっているなかで、大統領は「ボイコットも含めたあらゆる可能性を考慮する」「EUの他の国の様子を見て決める」に調子を変えてきた。
ただし、批判をかわすためだけの一時的な言動である可能性もおおいにあるので、目は離せない。
 ひっくり返ったエッフェル塔(本文に関係ありませんが)