テネレ砂漠単独横断


私が時々トレッキングに参加する、歩く旅専門のエージェンシーで、「テネレ砂漠、単独横断」の記録映画が上映された。
テネレ砂漠とは、サハラ砂漠中南部一帯の砂漠で、フランスとほぼ同じ面積だ。フランス人冒険家のピエールが、6週間かけて700kmを単独で横断した。

テレビなどで、一人旅を装ったドキュメンタリーを見るが、撮影隊がついているはずなので、緊迫した状況に陥った場合も、なんだかウソっぽくていけない。ピエールの旅は、ほんとうの単独横断だから、彼以外にカメラマンはいない。自分が歩いているところは、カメラを固定して、レンズを砂だらけにしながら撮影した。そんなわけで、映像のクオリティはいまいちだが、それがさらに臨場感を増している。
空漠とした砂漠に、なんと多くの人が住んでいることか。砂漠で出会った人々の写真がふんだんに映像に組み合わされていて、ピエールの、人間に対するなつかしさ、そのしなやかさと強靭さに対する感嘆が伝わって来るようだ。

ピエールは上映前、この旅の動機と目的について語った。
「自分の身体が、砂漠という極限の状況でどう反応するかを知ること」
「砂漠といった厳しい自然の中に、どうして人々は住み続けていけるのか、を知りたかった」

「こんなところになぜ住み続けられるのか」
という疑問は、私がよく旅をするプチ僻地(ピエールの旅先を僻地というなら、私の旅先はプチ僻地)でも感じることだが、これ自体、よそに住んでいるものにしか沸き起こらない疑問だ。そこに住む人にとっては、それが彼らの生活のすべてだ。先祖代々、しゅくしゅくと営んできた伝統的な生活は、簡単には崩れない長い長い縦糸だ。
ピエールは映画のなかで、知りたかったことを知ることができたか、言葉で伝えてはいないが、それ以外の生活との接触がほぼ皆無の遊牧民の映像から、こんな疑問がまったく意味をもたないことを、見るものに納得させている。