冬の街角から


あれっ、この寒いのに、と思って見上げたが、看板をつり上げている人は動かない。黒板には、「言葉を信用してはならない」と書いてある。ベルヴィル街で見た、メッセージ色が濃いビルの飾りだ。ベルヴィル街は中国、ヴェトナム、インド、マグレブなどからの移民の町。数年前、子供ギャングに催涙スプレーをかけられて以来、あまり足を踏み入れていなかったが、今や、アーティストやネクタイを締めない若いプロフェッショナルが多く住む、ボボ(ボヘミアンな暮らしを好む金持ち、を意味するブルジョワボヘミアンの略語)の町になるつつあるようだ。この看板(意見広告?)も、いかにもボボらしい。

下は、サンジェルマン大通りの画廊の前に置かれた、樹脂製のワニとブルテリア。イタリア人アーティストの作品だ。ぶさいくなブルテリアは近年、ボボにたいへん人気がある。しかしサンジェルマンあたりは、ボボもいるが、古くからキャビア・ゴーシュの町として知られている。キャビア・ゴーシュとは、お金もあり贅沢な生活を好むが、政治的には左派、という人を指す言葉で、英語のシャンペン社会主義者と同義だ。昔のミッテラン大統領や大統領選でサルコジに負けたロワイヤル女史などを批判するときによく使われた。
しかし最近、ロシアのプーチンがこの近くに巨大な館を丸ごと買ったりして、キャビア・ゴーシュの町にはロシアマネーが流れ込んでいるという。幸い、町並みやギャラリーからはまだロシアの臭いはしてこないが・・・。

日本語では、金持ちを指すことばとして、資産家、金満家、成金、小金持ちなどがあるが、生き方や考え方まで含めた言葉はないようだ。

方や貧乏のほうでは、日仏共通の言葉、いや世界共通語となりつつあるワーキング・プアがある。この不況で、フランスでも質屋や故買商が大繁盛している、という寒いニュースがさきほど流れていた。