この結婚詐欺、日本の今を象徴する事件ではないか

いやあ、いま話題の結婚詐欺(+殺人?)事件、ネットですごいことになっているけれど、日本ではあらゆるテレビ局が連日、同じような放送を繰り返し繰り返し放映しているのだろうなあ。海の彼方から事件を見ていると、今の日本を象徴する事件に思われるので、ちょっと書いてみた。(殺人の部分は、なにしろ想像を絶するので、以下では、結婚詐欺の部分にのみ言及している、とご了解ください)

こんな事件、ヨーロッパでも起きるだろうか。記憶にあるところでは、若い男性がお金持ちの未亡人に近づいて大金を獲得するケースはままある話だ。女性の気持ちを完全にからめとって、女性が亡くなるまでお世話をして、莫大な遺産を相続するのだから、犯罪ではない。たいていの場合、子供のいない女性(画家ルネ・マグリットの未亡人や、米画家ジョージア・オキーフのケース。ただし、男性は恋人というより、下僕のように仕えたらしい)なので問題にならないが、化粧品ロレアル創立者の未亡人(フランス最大の富豪)のように、実の娘が、母親の男性に対する莫大な生前贈与を裁判に訴えたケースもある。

しかしこんなことは、てっとり早くお金を手にいれたい若く美しい女性が、古今東西、日常的にやってきたこと。これを犯罪といえば、多くの玉の輿男女が犯罪者となる。だいたい、結婚なぞというものは、こうした(精神的)犯罪の隠れ蓑なのだ。

今回の事件は、女性に縁のない男性と、普通ではもてそうにない女性の関係のなかで起きた。生まれて初めて相手になってくれた女性だから、しかも、結婚詐欺の常識を破る外見だから、詐欺ではなくボクを真に愛してくれる女性、これを逃したらもう次はない、と思って財布の紐が緩んだのだろう。

フランスにもオタクや女性と縁のなさそうな男性がたくさんいる。しかし、今回のように、男性が大金を巻き上げられるケースは聞いたことがない。だいたい、フランス人男性はケチなので、すぐにお金は出さない。
しかも、こうしたオタクや、外見でも中身でもおつきあいしかねる男性には、ちゃんと受け皿がある。その多くは、フランス女性と縁がないだけであって、ほら、バンコクなどに行くと、よく見かけるではないか。バンコクまで行かずとも、「フランス在住」を唯一の自分のヴァリュー、ブランドにしている日本女性や、日本に住んでフランスを夢見る女性が、「フランス人」というだけでいとも簡単に手に入るらしい。
日本女性は、彼らにお金を出させるどころか、日本の実家や自分の貯金を使ったり、無職のフランス人男性を養うためにブティックで働いたり、けなげに尽くす。こういう日本女性を一度知ってしまったら、逃げられた後、また日本女性を探すしか、生きる道はない。(もちろん、そうではないカップルもたくさんいるが)
道を歩いているとき「日本人か」と声をかけてくるのは(このトシでも月1回くらいはあるのです!)、たいていそうした類である。

さてさて、これについては書ききれないほどの実話があるのでさておき、

なぜこれが日本的かというと、日本にはおいしいもの、おいしい店、一流店の情報が雑誌やネットで溢れていて、見栄っぱりが知ったかぶりするのは簡単なこと。なぜ知ったかぶりが簡単かというと、知ったかぶりされる方も、雑誌情報しかもっていないので、見栄の底を見破れず、「わあ、すごい」と思ってしまうこと。浅はかな見栄っぱりは、それを支える土壌があってこそ、意味を持ってくるのだ。

セレブなどという気持ち悪い言葉が流行り、日本ではモノさえ手にいれれば誰でも「にわかセレブ」になれること。ブランド店の紙袋や飛行機のファーストクラス・グッズもネットオークションで買える! それも、きわめて日本的な現象ではないか。

私もおいしいものが好きだが、食に関するブログが日本でここまで流行っているとは知らなかった。これも、セレブ奥様(とその候補)に見せかけるための道具なのかもしれない。フランス人も食べることが大好きで、美味しいものを食べながら、美味しいものの話をするのが常だ。しかし、毎日何時間もかけて食ブログを書いたり投稿するような人はいないのではないか。この詐欺女性は、「食」が生き甲斐になっているというより(プッチンプリンが好き、という人の舌が肥えているとは、とても思えないのだが)、食へのこだわりを広くネットに晒して、「セレブなのよ」と見栄をはる、あるいは、ネットで買ったおいしいものを自作だと吹聴して、ブログ上で「おいしいわ、すばらしいわ」と誉めてもらうことに酔っていたのにすぎないように思われる。

この女性の見栄の張り方は、日本でしかありえない。