アンジェイ・ワイダの新作「タタラク」

ポーランドアンジェイ・ワイダ監督の新作「タタラク」がパリ5区の小さな映画館で上映された。言うまでもなく、「灰とダイヤモンド」「地下水道」など、独ソの間で苛まれるポーランドの抵抗を描いた作品で知られる監督だ。
私が聴講している学校の主催で、 上映後、監督との質疑応答がある、というので、早めに行って場所を確保。早く来たのは、高齢者ばかりで、ぎりぎりになって、学生がどやどや入って来た。なにしろ無料のイベントなのである。

映画は、小さな町の謹厳実直な医師の妻と若者の出会い、若さと単純さがすがすがしい若者が、余命いくばくもない(医師の)妻の前で溺死する、という生と死のパラドックスを描く。医師夫婦はすでに、息子の早すぎる死を経験している。その物語の合間に、この映画の製作風景のドキュメンタリーや、主人公の女優クリスチナ・ヤンダが、この映画は引き受けたくなかったこと、撮影の途中で死んだ夫への思いを独白するシーンが差し込まれ、単純に筋を追えない重層的な映画となっている。ベッドひとつの薄暗い部屋(撮影中のホテルか)で女優が独白するシーンは、ドキュメンタリーを装ったフィクションか、と思っていたが、監督との質疑応答で、女優の独白を実際に記録した映像だとわかった。
「この映画でやりたかったことは、フィクションとドキュメンタリーをどう組み合わせるか、だ。演じることに集中する俳優には、演じる役がらの下に自分自身、自分の生の感情がある。どんな作り物も現実の替わりにはなりえない」。映画製作とは、単に、すでに出来上がっているフィクションをビジュアル化するものではなく、生の現実と交わって変化、成長していくものだ、とこの映画は教えてくれた。
なお、題名のタタラクとは、川に生える葦のこと。若者は、女性のために葦を引っこ抜きに行き、岸に戻る途中、溺死するが、葦の根がからまったためかどうか、理由ははっきりわからなかった。
中央がワイダ氏

監督はもうすぐ84歳になるが、次の映画への抱負を語り、若々しく意気盛だ。