「黒の画家」ピエール・スーラージュ回顧展

ポンピドーセンターで「黒の画家」ピエール・スーラージュ(1919年生まれ)回顧展を見た。「生存中のフランス人画家としては、一番有名な画家」とされるが、作品と名前が一致しない人も多いだろうから、以下のサイトで作品を見て下さい。ああ、この絵なら知っている、と思われる方も多いだろう。
たとえば1958年の作品はこんなふう。
http://serinoir.blogspot.com/2009/03/le-jour-ou-la-terre-sarretera.html
2005年の作品はこんなふう。
http://www.artnet.com/artwork/425344757/476/peinture-4-janvier-2005.html
要するに、作品は一貫してほぼ黒一色。70年も前からそうなのだ。

昨今、ファッションの主流は黒だが、昔は、たとえば私の学生時代、黒は喪服の色だった。その後、白黒のデザイナー山本耀司が現れ、モードの世界に新たな息吹を吹きこんだ。黒への執着は、アンチ・モードを推進するのに重要な役割を果たしたが、スーラージュの黒もそれに似て、黒のモダニティを何十年も早く先取りしていた、と言えるだろう。
「なぜ黒か」、という問いに、画家はこう答える。
「我々自身の、そして絵画が持つ力の最もあいまいな領域の中におぼろげに存在する未知の諸理由にも適用される言葉であるが、 唯一の理由は、『ゆえに』である」
これではなんだかよくわからない。さらに会場の壁に書かれた画家の言葉を読んでみる。
「黒の権威が好きだ。妥協しない色、暴力的だが、内化を誘う色だ。色であり、色でない。光りが当たると、変幻自在に変化する」
これならよくわかる。
たいていの抽象画は、具体的なもの、具象から生まれているが、スーラージュは、具象の抽象化を完全に拒否し、黒く塗られたカンバスのリアリティを見ろ、この形、質感を見ろ、こうして生まれた光と空間を見ろ、これが自分の絵画だ、と私たちに要求する。
黒色という色の領域を越えた、黒/光の領域を生み出すまでの60年間の推移が、約100点以上の作品で示されている。アクリル塗料を畝のように積み上げた最近の作品からは、さらに新たな領域を模索している様子が伺われる。
「私が求めているものが何か、を教えてくれるのは、私が行っていることだ」(1953年)