タケシの展覧会

「タケシ・キタノお絵描き小僧」展は抱腹絶倒の面白さだった。
カルティエ財団というコンテンポラリー・アートの殿堂のような場所で、よくもこれだけおもしろい展覧会が開けたものだ。ちなみに、この建物は、ジャン・ヌーベルという仏建築家の設計によるもので、ラスパイユ通りと美術館を隔てるガラス壁の向こうに、作られすぎない自然な庭が見える、私の大好きな建物のひとつだ。今は水仙がちらほら咲いている。

http://fondation.cartier.com/kitano-expo/index.html
展覧会については、同財団のプレスリリースを読んでいただくとして、一番おかしかったのは、死刑囚のインスタレーション。この死刑囚はなぜ絞首刑を免れたのか・・・その理由が図解されている。サイズが合わなかったの図(死刑囚が長身すぎて、足板を外されたのち下の床に余裕で着地し、首が締まらなかった)、設計ミスの図(死刑囚の足下の板が外れず、執行人が座る場所が外れ、執行人が落下した)、などの図解が、死刑囚の等身大人形の周りに配置されている。この人形も、首を締めるはずの縄が歯でかみとられ、首が締まらずセーフ。

これらブラックユーモアのインスタレーションのほか、たあいないジョークのビジュアル化作品が、会場に並ぶ。「日本の最先端バイオテクノロジーでは、こんな魚が作れます」、という作品では、3枚おろしにすると、中に寿司がスシ詰めになっている魚が展示されていて、笑いを誘う。
ポロック・マシン」では、2色の絵の具が入った穴あきボールがカンバスの上を転がるうち、ジャクソン・ポロックのような絵が出来上がる、という仕組みだ。抽象絵画を見て「こんなの僕でも描ける」と思う子供の心を汲み取った作品のように思われた。タケシは子供の頃、きっとそう思っていたに違いない。ちなみに、タケシの最新の映画「アキレスと亀」では、ピカソ風、ポロック風、バスキア風の絵などが登場し、コンテンポラリーアートとは何か、をふざけながら問うている。

地下展示室では「タケシの本当の仕事」と銘打って、タケシのお笑い番組ビデオを流していた。日本に住んでいた時、タケシのお笑い番組はほとんど見たことがないし、今見ても、やりすぎ感があって、素直に笑えない(フランス人にとっては、映画監督がこんなお笑いもやっているのか、という新発見があるが)。しかし、タケシの本業、お笑いと、とんでもない発想のビジュアル化は、きっとひとつの線でつながっているのだろう。カルティエ財団は、日本のテレビの制約を離れて、タケシがその発想を自由自在にビジュアル化できる場を提供したのだと思う。