IMFストロスカーンの逮捕

国際通貨基金IMF)トップのストロスカーン専務理事がニューヨークで、ホテルの客室メードに対する性的暴行容疑で逮捕された。フランスにとっては、大地震に等しい大事件だ。イニシャルをとってDSKと呼ばれる氏は、2012年大統領選挙で社会党から出馬する可能性が濃厚、と見られていた。有能な政治家、経済学者である氏は、出馬すれば、現職のサルコジを破れる可能性が一番高い候補者候補だった。
一番喜んでいるのがサルコジ大統領だろう。だから、事件が起きてすぐ、これは陰謀だ、などと言う人が出てきたのも無理はない。

真相はわからないが、SDKはこの方面では病気といってよく、フランスによくある「女たらし」、というのを越えていた。IMFトップに任命されて訪米するとき、サルコジ大統領が「アメリカはフランスと違う、女のことでは注意しろ」と警告したと言われている。DSKのこの病気は、かつてラジオインタビューで、「自分には、弱点が3つある。金と女と、ユダヤ人であることだ」と述べたことがあり、女癖の悪さは自分でもよく認識していた。社会党なのに(フランス社会党には大金持ちがいっぱい。キャビア左派ということばがあるくらいだ)ぜいたくが大好き、お金が大好き、奥さんは富豪の娘で、2人で超高級ポルシェを乗り回す。女癖の悪さは、取材に来た女ジャーナリストに手を出すのは日常茶飯事、というひどさだった。
「明日、DSKがこの事務所に来る。女性職員は、地味で肌を露出しない服を来てくるように」
というジョークがあるほどだ。暴行されそうになり、それをメディアで訴えた女性ジャーナリストは、DSKの名前を伏せて放送され、しばらく訴えをあきらめていたが、今ならまともに聞いてくれるだろう、と新たな訴えを準備中だ。

フランスでは政治家のスキャンダルには目をつぶる傾向がある。ミッテラン元首相の第2の家庭の存在も、ジャーナリストは皆知っていたが、在職中は表にでなかった。シラク氏についても表にでるのは先の話だろう。男性側に今も根強く残る、女を性的対象物としか見ないマッチョ主義、女性側にもある、性的魅力に重きを置く価値観、その上に乗っかって、権力を持つもの--政治、経済の上部はみな連携している--にほされることを恐れて口をつぐむメディアの慣習が出来上がったのだろう。

もし陰謀だとすれば、DSKほど罠にはめるのに簡単な男はいないだろう。後に無実が判明したとしても、これでは2012年の大統領選に出られないから、逮捕するだけで十分効果的だ。欧州中心のIMFを取り戻そう、とする勢力の陰謀だとしても、逮捕によるイメージ低下で十分だ。女癖の悪さだけなら、今まで何の問題もなかったが、今回は女癖の悪さを通り越した、性犯罪なのだから。

しかし、サルコジはすでにDSKのスキャンダルの証拠をたくさん集めていたらしく、この1月にも「DSKがもしフランスに戻ってきたら(IMFの職を辞めてアメリカから戻って来たら)、いろんなことが明るみにでるだろう。大統領選に出馬した途端、ミサイルが打ち込まれるぞ」と警告していた。
遅かれ早かれ、「女」が命取りになる運命ではあったのだ。