「メスはきたないんだよ、よごれているやつを取ればいい」

2年前の夏、クロアチアの島に行ったとき、浅瀬にごろごろウニがいた。それほど大きくはないが、友人とヘアクリップでつまんでは陸にあげ、平らな石を探して石包丁と称し、割ってはみたものの、食べるところがぜんぜんない。
クロアチアのウニは食用じゃないのかなあ、と諦めかけた頃、島巡りの船の船長さんが、
「メスを取らなきゃダメだよ」
と声をかけてきた。
「えー、どうやって見分けるの?」
「メスはきたないんだ、よごれてるやつを取ればいい」
何を言うか、失礼な、と思いながら、そうか、食べる部分は卵巣だからメスなんだ、と納得。上に海藻の切れはしや砂粒が乗ったウニを取って割ってみると、なんと、あのウニ色の”身”があらわれた。

美味い。食べる部分は少なく、かき集めても人差し指の先くらいにしかならないが、寿司屋のウニのようにもちゃっ、としておらず、”身”が締まっている。 海水で薄い塩味がついて、ほんとに美味だ。
周りに人が集まって来た。変なアジア人、と思っているに違いない。おいしいですよ、と誘っても誰も試したがらない。イタリア人じゃあないな、イタリア人は古代ローマ時代からウニを食べている(写真は、チュニジア、ハマメットのローマ遺跡ププットのモザイク。ウニと巻貝と二枚貝)。 舌の冒険ができないドイツ人かイギリス人、あるいはフランスのイメージとはほど遠い生活をしているフツウのフランス人だろう。

さて、今日買ったパリのウニは、オスだという。クロアチアのウニはメスしか食べられなかったが、オスの精巣も食用になるのだ。
殻を割ってウニの口を取り除き、黒い内臓の間に隠れる5花弁状の精巣をスプーンで削げとる。殻の中にたまった海水のうわずみをすくって、とろとろの身にかける。ウニの味が薄いので、ショウユより海水のほうが味が引き立っておいしかった。
しかし私はやっぱり、クロアチアで食べたメス・ウニのしっとり感が忘れられない。