AOCチーズ、トム・デ・ボージュ

さて、チーズの晩ご飯だが、これはマトゥイユ(La Matouille)と呼ばれる、ボージュ地方の名物料理だ。土壁のようなカビで覆われた直径17-18cmの円盤形のチーズ、トム・デ・ボージュを丸ごと使う。まず、チーズを耐熱の深皿に入れ、表皮の上部だけ切り取って、5、6カ所に穴をあけてニンニクを埋め込む。カップ1杯半の白ワインを注ぎ、強火のオーヴンに30分ほど入れ、とろとろになるまで焼くーーと、たいへん簡単だが、とてもおいしい。とろとろチーズをゆでジャガイモにかけて食べると、もうブタになってもいい、と思ってしまう。深皿に焦げ付いたカリカリの部分は、「家長」(この場合、山小屋の主人)が刮げとって全員に分配する。取り合いはいけません。

長く伸びる緑のカビを週1回、濡れ布巾でていねいに拭き、カーヴでゆっくり熟成させたこのチーズ、もとは農家が自分たちのために作ったチーズで、大量生産はできない。ワインだけでなく、チーズにもAOC(原産地統制名称。特定の産地で特定の規則に則って作られたものにつく称号)がつくが、このチーズも6年前、AOCの呼び名を獲得した。

山歩きのあと、農家でトム・デ・ボージュを買って帰ったのは言うまでもない。