南仏の核施設事故

南仏の核施設爆発事故については、日本はじめ世界のメディアがおおきくとりあげた。http://www.asahi.com/international/update/0912/TKY201109120382.html
しかし、施設を抱える仏電力公社EDFや仏原子力安全機構ASNが「放射能漏れはない」と口をそろえて言っても、ほんまかいな、とまず疑ってかかるのが、福島を経験した日本人だろう。そこで、放射能に関する独立監視機関CRIIRADの調査はどうなってるか、調べてみた。CRIIRADは民間の寄付で運営されており、福島にも出向いて調査を行った信頼できる組織である。(参照:http://d.hatena.ne.jp/parisienne75/20110527
事故が起きたのは南仏ガール県コドレ地方の核廃棄物処理を専門とするソコデル社。発生時間は、当初11:45と言われていたが、正式発表では12:37。フランスでは7月2日の南仏トリカスタン原発EDF)の配電盤の火災、8月18日のアルデッシュ地方のクルア・メッス原発EDF。2008年にもチッソガス爆発の危機があった)火災につぐ今年3番目の核施設事故である。いずれの事故も当局は、「原子力事故ではなく、単なる産業事故」と強調している。

CRIIRADサイトによる計測結果:
事故の起きた9月12日14:15および16:00
24時間監視の空間測定地(1立方メートルあたり1ベクレル以上の計測が可能。α、β線およびヨー素)で線量の上昇は見られない。事故発生時の風向きは、南方向。多くの原発が立地するローヌ川沿いに、同機関は6カ所の測定ポイントをもつ。
http://balisescriirad.free.fr/

核に関する事故は、取り返しがつかないことが多いが、健康被害などがすぐには見えないから、産業も当局もみな情報をあいまいにしたりウソを言ってその場をしのぐ。フランスとて例外ではない(チェルノブイリ事故のあと、放射能雲は国境で止まった、という仏当局の大ウソが、甲状腺ガン患者団体から訴追されている)。正しい情報を公開する、というのは、洋の東西を問わず、原子力産業、それを監督する政府にとって、おそらく無理な要求だろう。正しく情報を開示すれば、パニックが起きるのは当然のことなのだから。

CRIIRADも、チェルノブイリ事故のあと誕生した。日本にもこうした専門機関が生まれるべきだと思う。専門家を抱える独立機関が計測すれば、各自、線量計を買って測る必要もないだろう。ただし、日本はもうあちこちで汚染が進行しているから、よほどの予算がないかぎり、全国津々浦々をきっちり計測することはできないだろう。各県にひとつずつ、専門家を抱えるこうした独立計測機関が組織され、全国ネットワークを作る、というようなことができないだろうか。NHK番組「ネットワークで作る放射能汚染地図」に登場された木村真三さん、岡野愼治さんなどを中心にして、ぜひ、こうした独立機関を作って欲しいものだ。

余談だが、エリック・ベッソン産業エネルギー大臣(当然ながら原発大好き派)が今回の事故直後、ツイッターに「小躍りして喜んでる連中がいるだろう」と書いていた。程度の低い男だとは前から知っていたが、ひどいものである。死傷者に対する痛みも、周辺住民の不安に対する思いもない。
(参照:http://d.hatena.ne.jp/parisienne75/20110620

アレバの放射性廃棄物シベリア投棄

パリ近郊バニョレのエコロジーグループのブログに、アレバ社の核廃棄物シベリア投棄について詳しい解説が載っている。隠れてやっているのではなく、正々堂々と核廃棄物をシベリア送りしているのは本当だった。以下、その抄訳。
http://www.bagnoletenvert.com/article-les-dechets-d-areva-stockes-a-8000-km-de-la-hague-a-tomsk-en-siberie-37576640.html

原子力産業は長い間、放射性物質の96%がリサイクル可能だと言ってきた。公害を生む他の産業が涙を流してうらやましがる数値である。きれいでリサイクル可能な原子力産業のおかげで、フランスはエネルギーの独立性を保っている、と誇ってきた。しかし現実には、毎年108トンの使用済み核燃料が、ルアーブル港から船でセントピータースブルグに、さらに鉄道でシベリアの町セヴェルスクに送られ再処理され、使用可能となった核燃料(10%)がフランスに戻されたあと、残りが現地に放置されているのである。8000kmのこの危険な長旅は1990年代なかばに始まった。
58原子炉を抱えるフランス電気公社EDFの使用済み核燃料は、アレバ社のラアーグ工場で再処理され、プルトニウム(1%)、再処理用ウラン(95%)、どうにもならない部分(4%)に分別される。これが、96%再生可能、という宣伝文句の根拠となっている。プルトニウムの一部は、MOX燃料となって、フランス58原子炉のうち22炉で使用されている。再処理用ウランは、さらに濃縮しても、最大10%しか再利用可能とならず、残り90%が廃棄物となる。アレバは「2040年に第4世代原発が実現すれば、この劣化ウランも使用可能となるから、廃棄物ではない」と主張するが、グリーンピースのロシア支部は「オレンジの絞りカスからまたオレンジジュースを絞ろう、という考え。理論上は可能だが、ジュースはもう取れないし、ロシアもそれをやる気がない。10%しか利用できず、90%が毒物不要物となるものは、廃棄物も同然だ」としている。(この再処理は技術的にフランスではできないため、ロシアでやってもらっている、とアレバはいうが、シベリア投棄を正当化するための口実ではないだろうか、と私は思う。)

セヴェルスク:トムスクの北西12km。現在の人口約10万人。1992年まで、地図に載らない秘密都市だった。原子炉、核燃料再処理工場、核兵器工場がある。今でも、外部の人間は特別の許可を申請しなければ入れない。1993年4月6日、高放射性液体容器が爆発する事故が起きた。

ヘレン・カルディコットとアーニー・ガンダーセン

しばらく旅行していた。 日本で万一のことが起きたら、という不安があったから、携帯電話のつながるところに出かけていた。ヨーロッパの最貧国だが、携帯はつながった。

旅行中も頭をよぎるのはフクシマのことだった。東京や横浜から来た旅行者とでくわしたので尋ねてみたが、「べつにー、みんな普通に暮らしてますよ。心配したってしょうがないし」。

家に帰って、フクシマのことを心から案じる2人の専門家の対話をネットでみつけた。2人の言葉の端はしに、東大の児玉教授にも共通する、「人の心」がにじみ出ていた。 オーストラリアの医師で反核運動家のヘレン・カルディコットさんとおなじみ、アーニー・ガンダーセン氏(エネルギーに関する独立諮問機関、フェアウィンズ主催)だ。最後にカルディコットさんは、「アーニーと奥さんのマギーは、家をなくしたにもかかわらず、無償で、こうした分析をして皆さんに知らせる活動を行っている。フェアウインズのサイトを応援して」と締めくくった。原発の危険を知らせる活動のために、原子力産業からホサレて家をなくすことになったのだろうか、と心配になった。

ちょこっと聞いてメモしたところだけ書いてみる。長いから全部書く時間がない。
カルディコット「フクシマの現状を説明して下さい」
ガンダーセン「福島第一原発はまだ放射性物質を1日何ギガベクレルも放出し続けている。ひとつだけよいニュースは、汚染水循環システムが機能していること。もう汚染水を生み出さないですむ。そのかわり、高放射性物質を含むフィルターがたくさん出るので、その処理が問題となる」
「この1月間、3号機の燃料プールの写真が一切出ていないのが不可解だ。爆発後プルトニウムが発見されていて、3号機燃料プールで臨界が起きたのは確かなのに、2週間前のNRC(米原子力規制委員会)発表では、燃料プールは問題ない、と言っている。4号機は使用済み燃料プールの下につっかえ棒を作っただけで、建物の強化はされていない。大きな地震がきたら、すぐ逃げよ、と日本の友だちにいってある」
「1号機を覆ってガスを閉じ込めるテントも完成しそうだ。ただし放射性ガスは出続けるし、それはさらに高所に排出される。テントの意義は、付近で働く作業員を保護するだけのものだ」
カルディコット「チェルノブイリ事故後、政府はただちに多くの人を強制避難させたが、日本政府は活発な動きをせず、国民を被曝するに任せている。今後ガンを発症するひとがどんどんでる。政府のこの無気力は一体どういうわけか?」
ガンダーセン「まったく、説明できない。政府、役所、産業のエリートは、事態の深刻さを否定、大きな問題があるのにそれを認めないのだ」
「 これから日本人にとって重要な、米の収穫時期にはいる。どれだけの汚染が発見されるか、大問題になるだろう。汚染が見つかった米をどうするか?焼却すれば、ふたたび放射性物質が大気中にでて、フクシマ事故の再現だ。北半球をも汚染しかねない」
「除染に1500億ドルと見積もったが、あと500億ドルは必要だろう。日本で中規模の畜産業者が倒産したが、これだけでも負債額50億ドル。除染にはもっともっと経費がかかる」
カルディコット「除染って、一体全体、可能なことですか?放射能はどうしたってなくならない。山も川も森もすべて汚染されている。ひまわりに土地の除染効果があると言っても、セシウムを吸ったひまわりをどうするのか」
ICRPやWHOなど原子力、保健関係の国際機関は一体何をしている?」
ガンダーセン「つい最近ジュネーブで国際原子力委員会の会議があったが、密室会議だった。あなた呼ばれた?私も呼ばれていないよ」
「 珍しいことだが、 日本人もやっと怒り始めた。レンタルビデオ店ガイガーカウンターの貸し出しを始めたり・・・」
カルディコット「でも、もう遅すぎる」
ガンダーセン「この5年で日本北部の肺がん発生率は20-30%増えるだろう。それが最初で、そのあとは・・・」
カルディコット「白血病、障害児、低IQ児など、問題がどんどんでてくる。チェルノブイリの繰り返しだ」と泣き出しそうな声で続けた。
http://www.fairewinds.com/content/arnold-gundersen-fukushima-update-aileen-mioko-smith-rising-radiation-levels-japan-and-gover

アレバとは国家権力なり

パリのサンドニ・スタジアムできのう、ミーティング・アレバという、核産業アレバがスポンサーの陸上競技大会があった。世界中から陸上競技選手が集まる国際的年中行事らしい。陸上競技のチャンピオンが、放射能汚染のチャンピオンから金をもらって集まる。こうして、アレバは「健康、クリーン」イメージを買うわけである。一般消費者向けの広告を必要としないこうした企業が莫大な広告費を出す場合、そうして作り出されるイメージの正反対が企業の実態である、と思えば良い。
脱原発グループが、大会に来る人にチラシを配るというので、くっついて行ってみた。スタジアムに来る人の大半は、アレバが何をする会社なのか知らないに違いない。福島で爆発したMOX燃料を売った会社だなど、知るはずもないだろう。
(「原子力に安全はない」)
待ち合わせの駅には、トランシーバーを持った私服警官が見え隠れしていた。スタジアム入口に通じる陸橋に上がると、機動隊が待ち構えていて、とおせんぼされ、横断幕とかチラシを持っている人がいたので、私たちはじりじり後退させられた。やがて長い護送車がやってきて道を塞いだ。まさか、そこに押し込められるとは思わなかったが、全員(20人くらい)が車内に連行されてしまった。移民のためのデモや、年金問題デモなどで逮捕された人たちも乗ったらしく、いろんなステッカーが貼ってあった。護送車にかなり長い間閉じ込められ、やっと車が動いたものの、警察署に着いてからも30分ほど、そこに閉じ込められたまま。その間、暖房がガンガン。息苦しく、汗だくだ。立ち去った警官がわざとオンにしたもので、拷問の一種かな。車に戻って来た警察に「病人がいる」と訴えて、暖房はやっと止めてもらった。その後、署内に連れて行かれ、ベンチに座っていると、
「日本人のグループか。福島に帰ってやれよ」
という警官がいた。日本人は4人だった。それからひとりひとり調書をとられて、でも、何も悪いことをしていないので、全員釈放!となった。
(護送車。余裕で新聞読む人もいる)
気の毒なのは、アレバに招待された地域住民の一人が、運悪く私たちのそばにいたので一緒に護送車に乗せられ、競技見物を逃してしまったこと。警察は強権的で有無を言わせない。彼女は入場チケットを見せたのに、だめだった。

アレバに反対するものは、国家を脅かすものらしい。アレバは国家権力そのものなのだ。

フェッセンハイム原発、10年延長許可される

原子力安全局ASNは7月4日、アルザス州フェッセンハイム原発(フェッセンアイムだが、日本で通用してる表記に従う)1号機の10年延長を正式に許可した。80kmの距離にあるアルザス州都ストラスブール市議会が4月に、ほぼ満場一致で延長反対決議をしたにもかかわらず、また、安全に関するストレステストの結果も待たずに、である。最古の1号機(加圧水型)は、コンクリ基部の薄さ、燃料プールの保護不備など、安全性に関して問題が多い。フランスは地震が少ない国だが、この地域は最大M7.2の地震の可能性がある。それに対して、この原発耐震強度はM6.7。あとは「想定外でした」とやるつもりだろうか。

前にも書いたが、延長賛成派は「圧力容器以外、すべての部品が交換可能。使用し続けても問題ない」と主張する。ところが、今日、京都大学小出助教のサイトを見て、老朽原発で一番危ないのが、取り替えのきく各部分ではなく、この圧力容器であることを知った。以下のサイトの、「7月4日、玄海原発の圧力容器の脆さについて」で詳しく説明されている。
http://hiroakikoide.wordpress.com/2011/

鉄の圧力容器は、中性子線を浴びると脆くなり、ガラスに近づく性質がある。トラブルがあって冷やそうとすると、バーンと割れてしまうから、原子炉を冷やせなくなってしまう。どの程度脆くなったか、どの程度ガラスに近づいたかを知るために、鉄のテスト片を原子炉に入れ、様子を見ながら運転しているのだそうだ。
原発が商業化された当時、耐久は30-40年と考えられていた。おそらくテスト片の結果を見て、もうちょっと行けそうだ、と、世界各地でずるずる老朽原発の運転が延長されてきたのだろう。ある時点でガラス化が急激に進行する可能性があるかないかもわからない。まったく、「安全性をすこしずつ食いつぶしながら」(小出助教)運転しているのが現実だ。

原発の1.5km先はドイツ、40km先はスイス。脱原発を決めた両国から何らかの動きがあるのを期待したい。

DSK事件、社会党内で陰謀説が浮上

きのうは、DSK(元IMFトップのドミニク・ストロス=カーン)釈放のビッグニュース。放射能汚染がないとされるトリカスタン原発事故は小さな扱いだった。

DSKについては前にも書いたが、性的被害を訴えたホテル従業員の供述にウソがたくさんあることが分かり、DSKの在宅逮捕は金曜日に解除された。裁判は継続されるが、被害者の偽証が明らかとなった今、レイプがあったか否か、を裁判で明らかにする必要は必ずしもなく、無罪放免となる可能性が非常に高い。

これを受けて早速、DSKの政界復帰に関するアンケート調査が行われた。復帰に賛成するフランス人は49%と、反対の45%を上回る。勢いづいたのが社会党だ。くすぶっていた陰謀説も、 小声ではあるが、 名前入りでメディアに出始めた。同党のフランソワ・ロンクルはこう言う。
「ソフィテル(フランスのホテルチェーンで、DSK事件の舞台となったホテル)とその持ち主ACCORグループの経営陣の振る舞いにはっきりしない点がある。事件の前か後に、 ACCORグループとフランスの策略家--必ずしも政界の高いところにいる人ではないだろうが--の間になんらかの連絡があった可能性がある」(リベラシオン紙)
DSKが逮捕された5月14日の23時45分、ACCORグループからパリの大統領府情報官に連絡があり、DSK逮捕の旨が伝えられた。しかしそれは、逮捕の1時間も前だった。また女性は、服役中の麻薬マフィアと電話連絡をした後、DSKを訴えることを決めるなど、マフィアとのつながりが深く、ホテルに巣食う売春グループに属していた可能性も指摘されている。ところがホテル側は、この女性が模範的従業員だった、と誉め讃えた。

同党の政治家の何人かは、サルコジ大統領が内相だった2006年、どういうわけかNY警察にレジオンドヌール勲章を与えていること、強面のNY警察がこの若い女性一人にうまく操られるなど、とても想像できないことだ、としている。

さあ、どのような展開になることか。

トリカスタン原発で爆発事故

わー、大変だ。
今日午後3時ごろ、フランス南部ドローム地方にあるトリカスタン原発の変電施設で爆発が起き、黒い煙が立ちのぼった。爆発が起きたのは原子炉外で、「放射性物質は出ておらず、環境に影響はない」(EDFによる)。国際基準でレベル2の事故に分類された。

これは仏電力会社EDFとAREVAが運営する原発で、70年代に建設された加圧水型原子炉を4基かかえる。2008年7月にウラン水漏洩事故が起き、労働者100人が被曝した。
http://d.hatena.ne.jp/parisienne75/20110617
(どういうわけか、この裁判の続報は未だに報道されていない)

この前々日の6月30日、仏原子力安全局ASNはトリカスタン原発1号機に対して、32項目の改善項目を充たすよう要求したばかりだ。この老朽原発は2年前に10年間の操業延長許可(40年の稼働を許可する)を与えられたが、ASNも福島事故を受けて、心配になったのだろう。延長許可をもらった原発はみな、事故を起こすようだ。
新改善項目のなかには、「洪水、地震(仏南部は地震地帯に近い)対策の強化、燃料プールの冷却システムの改善、水素爆発が起きないような改善」がある。4年前の改善項目のなかに「火災発生時の対応期限が長過ぎること」があったが、それは改善されて、今回の火災では、即時対処ができたのだろうか。

フランスの原発もだいたい30-40年と老朽化しており、廃炉にするにも経費がかかるため、 だましだまし使い続けているのが現状だ。今後こうした事故は増え続ける恐れがある。

フランスは原発大国といっても、原子力は斜陽産業、という認識が高まっている。新たに原発を作れる場所はもうないし、おそらく住民の反対で新たな建設も不可能だ。だからアレバはフクシマをハイエナのように狙っているのである。東電は骨までしゃぶられるだろう。